新収益認識基準における本人代理人の判定

最近仕事で新収益認識基準の本人代理人を検討する機会があったので、その際に検討した過程と気になった点を記載してみたいと思います。2021年4月以降に開始する連結会計年度から新たに適用されている新収益認識基準ですが、大型の会計基準の導入とあり私が担当しているクライアントでも色々検討を行っております。今回はその中でも比較的検討する場面が多い本人代理人の論点にポイントを当てて記載してみました。

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目次

本人代理人の定義

そもそも本人代理人とは何かというと、新収益認識に関する会計基準の適用指針(以下適用指針)39と40項で以下の通り規定されています。

39. 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合において、顧客との約束が当該財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であると判断され、企業が本人に該当するときには、当該財又はサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識する。

40.  顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合において、顧客との約束が当該財又はサービスを当該他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であると判断され、企業が代理人に該当するときには、他の当事者により提供されるように手配することと交換に企業が権利を得ると見込む報酬又は手数料の金額(あるいは他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る額から当該他の当事者に支払う額を控除した純額)を収益として認識する。

上記基準から、本人代理人の定義は、顧客との約束において当該財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であると判断される場合には当該企業は本人となり、顧客との約束が当該財又はサービスを当該他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であると判断される場合には当該企業は代理人となります。

また、該当取引における会社の役割が本人に該当する場合には収益を総額で認識し、代理人に該当する場合には収益を純額で認識しましょうと規定されています。

本人か代理人かは、提供する履行義務が当該財又はサービスを企業自らが提供する履行義務を負っているか、他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務しか負っていないかで判断されることとなっていますが、もう少し詳細なルールがあるため次に項目で本人代理人の判定基準を見てみたいと思います。

本人代理人の判定基準

本人代理人の判定基準は支配が移転しているかどうか

引用ばかりとなってしまいますが、本人代理人の判定基準は適用指針により以下の通り規定されています。

41. 本人と代理人の区分の判定は、顧客に約束した特定の財又はサービスのそれぞれについて行われる。特定の財又はサービスとは、顧客に提供する別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)(会計基準第 34 項)である。顧客との契約に複数の特定の財又はサービスが含まれている場合には、企業は、一部の特定の財又はサービスについて本人に該当し、他の特定の財又はサービスについて代理人に該当する可能性がある。

42. 顧客との約束の性質が、財又はサービスを企業が自ら提供する履行義務であるのか、あるいは財又はサービスが他の当事者によって提供されるように企業が手配する履行義務であるのかを判定するために、次の(1)及び(2)の手順に従って判断を行う。
(1) 顧客に提供する財又はサービスを識別すること(例えば、顧客に提供する財又はサービスは、他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利である可能性がある。)
(2) 財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配しているかどうか(会計基準第 37 項)を判断すること

一言でいえば、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているかどうかで本人代理人が判定されます。支配されていれば本人となり、支配されていない場合には代理人となります。

支配が移転しているかどうかは3つの基準がある

更に支配が移転しているどうかについても基準上明記されています。

47. 第 43 項における企業が本人に該当することの評価に際して、企業が財又はサービスを顧客に提供する前に支配しているかどうかを判定するにあたっては、例えば、次の(1)から(3)の指標を考慮する。
(1) 企業が当該財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有していること。企業が財又はサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を有している場合には、当該財又はサービスの提供に関与する他の当事者が代理人として行動していることを示す可能性がある。

(2) 当該財又はサービスが顧客に提供される前、あるいは当該財又はサービスに対する支配が顧客に移転した後(例えば、顧客が返品権を有している場合)において、企業が在庫リスクを有していること。顧客との契約を獲得する前に、企業が財又はサービスを獲得する場合あるいは獲得することを約束する場合には、当該財又はサービスが顧客に提供される前に、企業が当該財又はサービスの使用を指図し、当該財又はサービスからの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有していることを示す可能性がある。

(3) 当該財又はサービスの価格の設定において企業が裁量権を有していること。ただし、代理人が価格の設定における裁量権を有している場合もある。例えば、代理人は、財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配するサービスから追加的な収益を生み出すために、価格の設定について一定の裁量権を有している場合がある。

上記より、支配が移転しているかどうかの3要件は、上記の通り(1)約束の履行に対して主たる責任を有していること、(2)在庫リスクを有していること、(3)価格決定権を有していることとなっており、これらを考慮して支配が移転しているか判断することとなっています。

ここは少しわかりにくいのでもう少し詳細にみてみました。

(1)約束の履行に対して主たる責任を有していることの意味

3つの判定基準の中で一番分かりにくい気がするのが、この約束の履行に対して主たる責任を有しているという点ではないでしょうか。この点については設例の解説が分かりやすいので見てましょう。設例17では、以下の様なケースで約束の履行に対して主たる責任を有していないとしています。

設例17

A 社はウェブサイトを運営しており、顧客は当該ウェブサイトを通じて、多くの供給者から製品を直接購入することができる。A 社は、B 社(供給者)との契約条件に基づき、B 社の製品 X が当該ウェブサイトを通じて販売される場合には、製品 X の販売価格の 10%に相当する手数料を得る。A 社は、顧客に製品 X が提供されるように手配した後は、顧客に対してそれ以上の義務を負わない。

このケースでは仮にB社が製品Xを供給できない場合にも、A社は自社の責任で製品 X を提供する義務はなく、製品 X を提供するという約束の履行に対する責任も負わないことから、製品の提供という約束の履行の主たる責任はB社にあるとして、A社には製品の提供という約束の履行の責任は無いとしています。

もう1つ設例18では、以下のようなケースで約束の履行に対して主たる責任を有しているとしています。

設例18

A 社は、B 社(顧客)に対してオフィス・メンテナンス・サービスを提供する契約を締結した。A 社は、オフィス・メンテナンス・サービスを顧客に提供するために、外部業者を定期的に利用している。A 社は B 社との契約を獲得する際に、外部業者 C 社と契約を締結する。B 社に対するオフィス・メンテナンス・サービスは、A 社の指図により C 社が提供する。

このケースで、A 社は、オフィス・メンテナンス・サービスを提供する約束の履行に主たる責任を有しているとしています。A 社は、B 社に約束したサービスを提供するために C 社を利用しますが、C 社が B 社のために履行したサービスに対する責任を負うのは A社である(すなわち、A 社がサービスを自ら提供するのか、サービスを提供するために外部業者を利用するのかにかかわらず、A 社は契約における約束の履行に責任を負う。)。

このように財又はサービスを提供する場合には、仮に提供すべき第三者が財又はサービスを提供できない場合にも、企業が引き続き約束の履行を行う必要があるかどうかで、本人か代理人かを判断できるのではないでしょうか。

約束の履行については第三者が関与する場合についてもう少し詳細に規定されていますので見てみたいと思います。

(1)第三者が関与する場合

特に財又はサービスの提供に第三者が関与してくる場合には特に分かりにくくなってきます。第三者が関与してくる場合の適用指針のルールは以下の通りです。

43. 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているときには、企業は本人に該当する。他の当事者が提供する財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配していないときには、企業は代理人に該当する。

44. 顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している場合、次の(1)から(3)のいずれかを企業が支配しているときには、企業は本人に該当する。
(1) 企業が他の当事者から受領し、その後に顧客に移転する財又は他の資産
(2) 他の当事者が履行するサービスに対する権利他の当事者が履行するサービスに対する権利を企業が獲得することにより、企業が当該他の当事者に顧客にサービスを提供するよう指図する能力を有する場合には、企業は当該権利を支配している。
(3) 他の当事者から受領した財又はサービスで、企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、他の財又はサービスと統合させるもの例えば、他の当事者から受領した財又はサービスを、顧客に提供する財又はサービスに統合する重要なサービス(第 6 項(1)参照)を企業が提供する場合には、企業は、他の当事者から受領した財又はサービスを顧客に提供する前に支配している。

財又はサービスの提供に他の当事者が関与してくる場合、財又はサービスが顧客に提供される前に企業が当該財又はサービスを支配しているかどうかで本人代理人が判定されるとしています。

例えば、先ほどの設例17のケースでは、、A 社は、製品 X を顧客以外の当事者に提供されるように手配することはできず、B 社が製品 X を顧客に提供することを禁止することもできないことから、A社は製品Xを顧客提供前に支配していないとしています。

設例18のケースでは、A 社は、B 社との契約締結後に、C 社からオフィス・メンテナンス・サービスに対する権利を獲得するが、当該権利は B 社には移転されない。すなわち、A 社は、当該権利の使用を指図する能力及び当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しているとしています。さらに、A 社がオフィス・メンテナンス・サービスの権利に対する支配を獲得するのは、B 社との契約締結後ではあるが、当該サービスが B 社に提供される前である。A 社と C 社との契約条件により、A 社は、当該サービスを A 社に代わって C 社が提供するように指図する能力を有しているとしており、A社は当該サービスが顧客に移転する前に支配しているとしています。

このように第三者関与の場合には、財又はサービスが顧客に提供される前に支配しているかどうかに基づいて本人代理人かを判断する1つの条件となっていますが、その財又はサービスの提供を指図することができるか否かで判断できるのではないかと考えられます。

(2)在庫リスクを有していることの意味

これは読んで字のごとく、財やサービスに対して在庫リスクを有しているかどうかで判断することになります。

商品の直送の様なケースで、販売先の注文キャンセルがあった場合に、販売したモノ自体も仕入先に返品してしまうようなケースでは、在庫リスクを負っていると言えなくなってしまいます。

(3)価格決定権を有していることの意味

これもわかりやすいのではないでしょうか。値付けできる権利を有しているかどうかです。第三者関与の場合に、売価の一定料率を受け取るような契約では価格決定権を有しているとは言えないかと思います。

まとめ

長くなりましたが、長いのはそれだけ判断基準が細かいからとも言えます。ただ、どの取引が本人代理人に該当するのか基準に明記されているわけではありません。これは新収益認識基準全般に言えることですが、あくまでも基準の考え方に従って個々の案件ごとに判断することとなります。なお、上記の要件はどれか1つでも満たしたらどうかというものではなく、あくまで総合的な判断となるようです。

以上、「会計士が解説する新収益認識基準における本人代理人の判定」という記事でした。関連する記事は以下参照ください。

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この記事を書いた人

大手監査法人に勤務している会計士です!
会計基準、株式や不動産投資などのお金に関する情報を発信しています。

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