2021年から適用の新収益認識基準のポイントを分かりやすく解説

悩んでいる経理

2021年から適用される新収益認識基準の基本的な考え方が分からない。従来からの基準との違いは?
どういった会社に適用されるの?

新収益認識基準全般をできる限りコンパクトにまとめて上記のお悩みにお答えします。

この記事で分かること
  1. 新収益認識基準とは?どうして適用される?適用時期は?適用範囲は?適用される会社は?
  2. 新収益認識基準と従来の収益認識基準の違い
  3. 新収益認識基準のポイント(5ステップとは)
  4. 具体的な適用ケース

2021年4月1日以降開始する事業年度より新収益認識基準の適用が開始されました。

新収益認識基準における大きなポイントは以下の2つです。

  • 「履行義務」に基づき収益認識を行うこと
  • 収益認識の過程を5つのステップに分けること

これらも以下で解説していきます。

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目次

新収益認識基準のポイント:どうして適用される?適用時期は?適用範囲は?適用される会社は?

新収益認識基準とは?

改めて2021年4月1日以降開始する事業年度より新収益認識基準が適用されます。

具体的には、「収益認識に関する会計基準」「収益認識に関する会計基準の適用指針」及び「設例」の3つをあわせて新収益認識基準と呼ばれています。

「収益認識に関する会計基準」は新収益認識基準に関する基本的な概念を、「収益認識に関する会計基準の適用指針」は個々のケースに対応した具体的な考え方を、「設例」はやや迷いやすいようなケースを具体的に設例で示してくれています。

興味がある方は以下にリンクより基準を参照ください。

どうして適用される?

では、どうして新収益認識基準は新たに適用されるのでしょうか?

その理由は以下の2つです。

  • これまで収益認識に関する概括的な基準がなかった
  • 海外との会計基準の比較可能性を担保するため

それぞれ説明します。

これまで収益認識に関する概括的な基準がなかった

新収益認識基準ができるまで日本には収益認識について概括的に定めた会計基準は存在しませんでした。そのため個々のケース毎に判断していたのですが、改めて概括的な基準を定める目的で新収益認識基準が設定されています。

海外との会計基準の比較可能性を担保するため

理由としてはこちらの方が大きいのですが、海外特にIFRSではIAS18号で収益認識という基準が存在していました。海外との比較可能性の観点から日本の会計基準を海外の基準と合わせるため新たに導入された経緯があります。そのため、日本の新収益認識基準はIFRSの収益認識基準をベースとして一部修正が加えられています。

適用時期は?

適用時期は以下のとおりです。

原則は、2021年4月1日以後に開始する事業年度の期首から適用開始
例外として、2020年4月1日以後に開始する事業年度の期首からも適用開始

例えば、3月31日決算の会社であれば2022年3月期から、5月決算の会社であれば22年5月期から適用となります。

なお、決算期が異なる連結子会社などは重要性に応じて早期適用を検討する必要があります。

適用範囲は?

適用範囲は以下のとおりです。

適用会社は?

監査法人の監査を受ける上場会社や会社法上の大会社は必須となります。

新収益認識基準のポイント:従来の収益認識基準の違い

新収益認識基準と従来の収益認識基準の違いを見るために、それぞれの基準での収益認識の考え方を整理します。

ここでは、新収益認識基準の大きなポイント1つである「履行義務」に基づき収益認識を行うことも説明します。

ここで説明するポイント
  • 「履行義務」に基づき収益認識を行うこと
  • 収益認識の過程を5つのステップに分けること

従来の収益認識基準の考え方

従来の収益認識基準では収益はどのような考え方のもとに計上されたのでしょうか。

まずそもそも新収益認識基準ができるまで収益認識について定めた基準は存在していませんでした。企業会計原則等会計基準全般の原則に考え方が記載されていただけでした。

そしてその従来の基準では、収益は実現主義に基づき計上されてきました。

実現主義とは、次の2要件を満たした際に収益を認識する考え方です。

実現主義の2要件
  • 企業外の第三者に対して財又はサービスを提供し
  • その対価として現金同等物を取得すること

それぞれ以下のとおりです。

企業外の第三者に対して財又はサービスを提供するとは、取引先や利用者に対して商品やサービスを提供することを意味します。また、対価として現金同等物を取得するとは、売掛金や受取手形等の債権を取得することを意味します。

つまり、

従来の実現主義では、取引先や利用者に対して商品やサービスを販売し、その対価として売掛金や受取手形の債権を取得した際に収益を計上することとなりました。

なお、実現主義ではどの時点で実現したかについては複数認められています。

例えば、出荷・納品・検収これらはいずれも実現主義として認められています。

新収益認識基準の考え方

それでは、新収益認識基準のもとでは収益はどのような考え方に基づいて計上されるのでしょうか。

新収益認識基準のもとでは、顧客との履行義務の充足に基づいて収益は認識されます。

新収益認識基準の収益認識のポイントは以下の2つとなります。

新収益認識基準における収益認識のポイント2つ
  • 履行義務とは何なのか
  • 履行義務はいつ充足されるのか

それそれ以下で説明します。

履行義務とは何なのか

履行義務とは何なのでしょうか?

履行義務とは、取引の相手方との間で合意された約束となります

例えば、通常の商品販売であれば相手に商品を受け渡すことが企業が果たすべき履行義務となりますし、サービスであれば相手にサービスを提供することが履行義務となります。

履行義務はいつ充足されるのか

もう一つ重要なのは履行義務がいつ充足されるという点になります。

いつ充足されるのかについては以下2つの考え方があります。

履行義務が充足される時点2つの考え方
  • 一時点で充足される履行義務
  • 一定期間にわたって充足される履行義務

例えば、一時点で充足される履行義務とは商品や製品の販売です。これらは買い手に商品や製品が引き渡された時点で履行義務が充足されることから、一時点で充足される履行義務となります。

一方、一定期間にわたって充足される履行義務とは長期にわたるサービスの提供となります。サブスクリプションのサービスなどでは、一定の期間にわたってサービスが提供されることから、サービス提供期間に応じて履行義務は充足されることとなります。

まとめると、

新しい新収益認識基準のもとでは、
製品の販売のような一時点で取引が完了するケースでは取引先に対して商品を販売した時点で収益が認識され、
サブスクリプションサービスのように継続してサービスが提供される場合はサービス提供期間に応じて収益を計上することとなります。

新収益認識基準と従来の収益認識基準の違いとは

では、両者の考え方はどう変わったのでしょうか。整理すると以下のとおりです。

従来の収益認識基準では「出荷基準」「納品基準」「検収基準」などの企業の判断により収益認識時点は異なりましたが、新収益認識基準のもとでは基本的には検収基準となります。

ただし、新収益認識基準でも一部出荷基準で収益を認識する例外が認められています。詳しくは以下参照ください。

新収益認識基準のポイント:5ステップとは

これまでで新収益認識基準の大きなポイントの一つである履行義務の充足に応じて収益を認識する考え方を見てきました。ここからはもう一つの大きなポイントである5ステップの考え方を見ていきたいと思います。

ここで説明するポイント
  • 「履行義務」に基づき収益認識を行うこと
  • 収益認識の過程を5つのステップに分けること

新収益認識基準では収益認識に至る過程を5つのステップに分けています。それは以下のとおりです。

収益認識の5ステップ

ここからそれぞれのステップの内容を見ていきます。具体例があった方が分かりやすいため以下のケースをもとに説明します。

設例
  • A社は機器の販売と2年間の保守サービスを1つの契約として45,000千円でB社に販売した
  • それぞれ別個に契約する場合、機器販売は40,000千円、2年間の保守サービスは10,000千円で提供している

Step①:顧客との契約の識別

1つ目のステップは顧客との間の契約を識別することとなります。

今回のケースでいうと、「機器の販売」と「2年間の保守サービス」で1つの契約となります。

Step②:契約における履行義務の識別

2つ目のステップは契約における履行義務を識別することとなります。

今回のケースとでいうと、契約の中に「機器の販売」及び「2年間の保守サービス」という2つの履行義務が識別されます。

Step③:取引価格を算定する

3つ目のステップは契約における取引価格を算定することとなります。

今回のケースでいうと、そのまま20,000千円が取引価格となります。

Step④:履行義務への取引価格の配分

4つ目のステップは取引価格を契約の履行義務ごとに配分することとなります。

配分方法は独立販売価格に基づくこととなります。

そのため、今回のケースでいうと以下のとおりです。ここで算定された価格がそれぞれの履行義務の売上計上額となります。

履行義務への取引価格の配分
  • 機器販売という履行義務に配分される取引価格は36,000千円(=45,000千円×40,000千円/(40,000千円+10,000千円))
  • 2年間の保守サービスという履行義務に配分される取引価格は9,000千円(=45,000千円×10,000千円/(40,000千円+10,000千円))

Step⑤:履行義務の充足に応じて収益を認識する

5つ目のステップは履行義務の充足に応じて収益を認識することとなります。

上記でもすでに説明した内容となります。

今回のケースでは以下のとおりです。

履行義務の充足に応じて収益を認識
  • 機器販売は販売した一時点で義務が履行されることから、機器を納品した時点で売上高36,000千円を計上します
  • 保守サービスについては2年間にわたって義務が履行されることから、2年間にわたって売上高9,000千円を計上します(毎年4,500千円ずつの売上を計上)

まとめ

上記の考え方を表にまとめると以下のとおりです。

収益認識5ステップの当てはめ

新収益認識基準のポイント:具体的な適用ケース

上記が新収益認識基準の基本的な考え方となります。以上、「2021年から適用の新収益認識基準のポイントを分かりやすく解説」という記事でした。

新収益認識基準のうち適用指針では上記の基本的な考え方に基づいていろいろなケースも説明していますが、それぞれについては以下の記事を参照ください。

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この記事を書いた人

大手監査法人に勤務している会計士です!
会計基準、株式や不動産投資などのお金に関する情報を発信しています。

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