会計士による税理士登録問題は解決したのか?【解決済!】

結論から書いてしまうと、2022年7月現在でも公認会計士としての資格を有する者は税理士として登録することが可能となっています。

しかし、昔からこの会計士による税理士登録については両者の言い分があり、特に税理士側からは、会計士が自動的に税理士登録できる制度の廃止を求める声が強かったようです。その過程と決着を見てみました。

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目次

会計士における税理士登録の歴史

そもそも税理士資格登録とは?

会計士の税理士登録を可能としている法的根拠は税理士法第三条に規定されています。税理士法第三条は以下の通りです。

第三条 次の各号の一に該当する者は、税理士となる資格を有する。ただし、第一号又は第二号に該当する者については、租税に関する事務又は会計に関する事務で政令で定めるものに従事した期間が通算して二年以上あることを必要とする。

一 税理士試験に合格したもの

二第6条に定める試験科目の全部について、第七条又は第八条の規定により税理士試験を免除された者

三 弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む。)

四 公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む。)

2 公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号) 第十六条の二第一項の規定により同法第二条に規定する業務を行うことができる者は、この法律の規定の適用については、公認会計士とみなす。

3 第一項第四号に掲げる公認会計士は、公認会計士法第十六条第一項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士とする。

引用元:税理士法

こちらは平成26年改正後の税理士法第三条の文言となりますが、会計士や弁護士に税理士資格の付与を認めるという1項3号4号の規定は改正前から変わりありません。この条文で会計士や弁護士に対して自動的に税理士資格の付与を認めることとなっています。

この会計士や弁護士に税理士の資格を付与するという問題について、税理士側からは、従来から税理士とは異なる会計士や弁護士が無条件で税理士資格を登録できるのはどういうことだ?という声が上がっていました。

その声が大きくなり、税理士の団体である日本税理士会連合会や日本税理士連盟は、会計士や弁護士に無条件で税理士資格を登録できる制度の廃止、具体的には税理士法第三条1項3号4号と2項の廃止を求めるのです。

一方で付与される側である会計士や弁護士からすると、この制度を変える趣旨や理由がないと反発します。会計士や弁護士における税理士登録問題の基本的な争点は以上の通りです。

次に両者の言い分を、まず税理士側の言い分は以下の通りです。

税理士側の言い分

税理士側の言い分は2012年9月26日に日本税理士会連合会から国税庁長官及び財務省主税局長宛に提出された、「税理士法に関する改正要望書」に以下の通り記載されています。

使命が各々異なる専門職業に対する資格付与は、各々の専門性を問う試験を通じて行うことが原則である。このため、現在、税理士の資格が自動付与となっている弁護士や公認会計士について、関係者等の意見も聞きながら、例えば、弁護士は会計学に属する科目に、公認会計士は税法に属する科目に合格することを原則とするなど、税務に関する専門性を問う能力担保措置を講じる。

引用元:税理士法に関する改正要望書(平成24年9月26日)

そのままなのですが、会計士や弁護士には税務や会計に関する知識がないのだから、無条件に税理士資格登録をできるようにするのではなく、税法や会計学に関する税理士試験の科目合格を原則とするなど、能力担保措置を講じる必要があるというものでした。

これに対して会計士側の言い分は以下の通りです。

会計士側の言い分

この日本税理士会連合会の「税理士法に関する改正要望書」を受けて日本公認会計士協会もすぐに声明を出しています。同じ年の10月10日に日本公認会計士協会より以下の声明が出されます。

日本税理士会連合会の「税理士法に関する改正要望書」について

日本税理士会連合会は、9月 26 日の理事会において「税理士法に関する改正要望書」を決定し、翌日、国税庁長官及び財務省主税局長宛に提出した。当該要望書には、「公認会計士は税法に属する科目に合格することを原則とするなど、税務に関する専門性を問う能力担保措置を講じるべきである。」と、従来からの主張が記載されている。

公認会計士の資格は、租税法が必須科目である公認会計士試験に合格した後、実務補習において税務に関する教育研修を履修し、さらに修了考査において、法人税その他公認会計士が行う業務に必要な税に関する理論及び実務の試験に合格することで、ようやく取得することができる。また、資格取得後においても、公認会計士は、法令により研修が義務付けられており、税務を含む専門的知識の向上に日々努めている。

このように、公認会計士が税務業務を行うための専門的能力は、その資格取得に当たり租税法に関する試験科目に合格することで確認されており、また、資格取得後も自己研鑽を続けていることを踏まえれば、改めて税務に関する専門性を問う能力担保措置を講ずる必要性は全くない。

我が国における税制や会計基準の変革に伴い、会計領域の一部である税務を取り巻く環境も高度化、国際化が進んでおり、企業、国民等様々な納税者の多様なニーズに応えるためには、納税者が、組織再編税制や国際租税の分野などの専門性を有する税務の専門家である担い手の中から、必要な税務サービスを受けることができる仕組みが不可欠である。

様々な納税者の多様なニーズに的確に対応するために設けられた税理士法第3条(税理士の資格)の立法趣旨は、公認会計士法制定後に税理士法が制定されて以来 60 年間に亘り、我が国の税務行政の基盤を支える制度として十分に合理性があり、日本税理士会連合会が主張するような改正の必然性は全くない。

引用元:日本税理士会連合会の「税理士法に関する改正要望書」について(平成24年10月10日)

やや長いのですが会計士側の言い分としては2点、①能力保全措置を講じる必要はないというものと、②制度の廃止は様々な税務ニーズに応えるという税理士法の趣旨を没却するというものでした。

①能力保全措置について講じる必要は無いとする理由

会計士試験において既に租税法が範囲になっている、また、資格取得後も研修を通して税務の研鑽に励んでいることから、改めて能力保全措置を講じる必要性が無いというものでした。

多様な税務ニーズに応える必要があるとする理由

会計や税務の高度化・国際化が進んでいる中、様々な背景を持った専門家から税務のサービス提供を可能にするため、税理士法に会計士や弁護士は無条件に税理士資格を登録できると定めたにも関わらず、これを廃止することは多様なニーズに応えるとする当初の税理士法の趣旨を没却するというものでした。

これ以外にも、資本主義を採用している諸外国では会計士が税務ができるのは当然である、また、税務もできない会計士の存在は日本の会計及び監査制度の国際的な信頼を失うことにつながるといった意見もあったようです。詳しくは会計士政治連盟のサイトに記載があります。

いずれにせよこういった形で公認会計士協会と税理士会の間で税理士資格登録問題に関する議論は続いていたのですが、2013年12月に一応の決着を迎えます

税理士資格登録問題の決着はどうなったのか?

続いていた税理士資格登録問題に関する議論ですが、平成26年度税制改正で決着を迎えます。平成25年(2013年)12月3日に会計士協会と税理士会の間で以下の合意がなされます。

一.税理士制度の信頼性向上に資するとともに監査の信頼性確保にも配慮する観点から、税理士法 を改正し、税理士の資格について、現行第3条第1項及び第2項とは別に、公認会計士は、公認会計士法第16条に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関 す る研修を受講することとする旨の規定を設けることとする。

上記研修について定める財務省令においては、以下の点を規定することとする。
① 実務補習団体等が実施する税法に関する研修を国税審議会が指定す る。
② 指定する研修は~説法に属する試験科目の合格者と同程度の学識を習得することができる研修とする。

二.上記の改正の施行は3年後とし、当該改正施行後の公詔会計士試験合格者から適用することとする。
三.税理士法第3条に関して更なる見直しを求めない。

引用元:確認書(平成25年12月3日)

要約すると、会計士には引き続き税理士資格を付与する。ただし、税理士会が求めていた能力保全措置が講じるとするものです。そして、会計士側からこの問題について今後蒸し返さないことが要求されたのか、以後は第三条を見直さないことが明記されています

上記を受けて、平成26年度税制改正で税理士法第三条に以下の第3項が追加されることとなります。

公認会計士に係る資格付与の見直し

税理士の資格について、現行税理士法第三条第1項及び第2項とは別に、公認会計士は、公認会計士法第16条規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、一定の税法に関する研修を受講することとする旨の規定を設けることとする。

(注1)上記の税法に関する研修は、次の通りとする。

①実務補習団体等が実施する税法に関する研修を国税審議会が指定する。

②指定する研修は、税法に属する試験科目の合格者と同程度の学識を習得することができる研修とする。

(注2)上記の改正は、平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格したものについて適用する。

引用元:平成26年度税制改正(税理士制度の見直し)の概要(平成26年4月8日)

その結果、税理士法第三条の3項に新たな能力保全措置条項が加えられて今に至ります。この条項が追加された結果、会計士にどのような影響が出たのかは次の項目で見たいと思います。

税理士資格登録に関して会計士への影響

2017年11月以降の会計士試験合格者は影響あり

上記の通り税理士法第三条3項が新たに追加されたことにより、会計士協会は実務補修所に関する規定や細則を改訂しています。その結果、2017年11月以降に会計士試験に合格して補修所に入所した試験合格者に対して税法に関する研修を必須としています。

具体的には会計士協会のサイトに明記されていますが、改正の主なポイントは以下の通りです。

実務補修所規定の主な改正ポイント

① 実務補習の充実策の一環として、監査科目だけではなく、税法科目も重要な科目と位置付け、考査の合格基準について従来の税法科目の考査2回で各回4割以上の取得に加え、税法科目全体で6割以上の取得を設ける。

② 税法科目の考査2回については全国統一問題で同一日時に実施する。

③ 実務補習の考査及び修了考査の問題をウェブサイトで公表する。

①について実務補修所で考査というものが10回行われます。私が修了考査を受けた10年以上前にも税務の考査が1回あったのですが、税務も含めた全10回で平均6割を取れば卒業要件を満たしていました。

しかし、上記改正の通り今の考査では税法の考査2回で6割、会計や監査などの残り8回で平均6割取る必要があるようです。私の時代の税法の考査は難しく、4割取れたら後は他の9回でカバーするという会計士も多かったのですが、今はその方法が使えないようです。

最近監査法人に入所した子に聞いたら税法2回で6割必達は説明されるとのことでした。当たり前ですが上記の税理士法改正の影響が出ているようです。

なお、③について実務補習の考査はこちら、修了考査の問題はこちらに開示されています。

2017年11月以前の合格者は影響なし

なお、2017年11月以前に会計士試験に合格していたものについては特に取り決めはありません。従来通り修了考査に合格して会計士となっているのであれば、上記の研修制度を受けずとも税理士の資格を取得できるものとされています

ただ、継続的専門研修で税務の単位取得を必須にするなど、制度面でも税理士に一定の配慮をしているのかもしれません。

最後に

正直なところ色々な権益争い等あるのだと思いますが、双方納得する形で収まったのであれば良かったと思います。

将来独立を考えている会計士からすると、税理士側が求めていた税法科目の合格を求められなかったのは良かったと思います。独立を考えるくらいの年齢面からすると、税理士試験の税法科目はやはりしんどいからです。

ところで、弁護士についての記載が見当たらず、特に税理士法が改正もされていないのですが、こちらの取り扱いはどうなったのでしょうか。正直なところ弁護士は独立しても税理士の仕事にあまり踏み込んでこないことから、そこまで問題視されていないのでしょうか?

ただ、上記確認書はあくまで会計士と税理士の間での合意であることから、弁護士に関する税理士法第三条の見直しは今後行われるのかもしれません。

以上、「会計士は今でも税理士登録することができるか?」という記事でした。

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この記事を書いた人

大手監査法人に勤務している会計士です!
会計基準、株式や不動産投資などのお金に関する情報を発信しています。

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