IPO準備会社の有価証券届出書におけるKAMの取り扱い

久しぶりにIPOの話題です。2021年3月期からその適用が始まったKAM(Key Audit Matter)監査上の主要な検討事項ですが、IPO準備会社でも適用されることとなります。しかし、IPO準備会社では有価証券届出書に複数年分の財務諸表が記載されることから、通常の有価証券報告書の場合とKAM記載の要否の取り扱いが異なっています。

そこでIPO準備会社でのKAMの適用についてまとめました。

そもそもKAMの内容については以下の記事を参照ください。

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原則的なKAMの取り扱い

2021年3月期以降、上場会社が提出する有価証券報告書の監査報告書では、KAMの記載が必須となっています。KAMに該当する事項が無いと監査人が判断した場合は記載がありませんが、原則として全ての会社においてKAMの記載が必要となっています。

また、連結財務諸表及び単体財務諸表のいずれの監査報告書についても記載が必要となっていますが、会社法監査の監査報告書では当面の間記載は不要とされています。

これが上場している会社の一般的なKAMの取り扱いです。

IPO準備会社でのKAMの取り扱い

一方、上場する前のIPO準備会社ではどのような取り扱いになっているかというと以下の通りです。

報告書の種類 KAM記載の要否
上場承認時の有価証券届出書 一定の規模要件を満たすかどうか
上場後の有価証券報告書

上場承認時の有価証券届出書でKAM記載が必要となる一定規模要件

上場承認時に提出する有価証券届出書については一定の規模要件を満たした場合にのみ記載が必要となっています。その一定規模要件は以下の通りです。

負債200億円未満 負債200億円以上
資本金5億円未満 KAMの対象外 KAMの対象
資本金5億円以上 売上高10億円未満 KAMの対象外 KAMの対象
売上高10億円以上 KAMの対象 KAMの対象

一定規模要件の判定時期は直前期末

次に、上記の一定規模要件を満たすかどうかは申請期ではなく直前期の期末により判定することとなっています。これは、上場承認時点では申請期の期末が存在しないことが理由と考えられます。

これについては少しわかりにくいので以下のようにパターン分けして、公認会計士協からも説明されています。

2020年3月期

(早期適用)

2021年3月期

(強制適用)

2022年3月期 2023年3月期
パターン1 直前々期 直前期 申請期
一定規模要件 満たす
KAM記載 KAM不要 KAM必要
パターン2 直前々期 直前期 申請期
一定規模要件 満たす
KAM記載 KAM必要 KAM必要
パターン3 直前々期 直前期 申請期
一定規模要件 満たさない
KAM記載 KAM不要 KAM不要

パターン1

✔ 直前期である21年3月期に一定規模要件を満たす

✔ そのため21年3月期はKAMの記載が必要

✔ しかし、20年3月期はそもそもKAMが任意適用のためKAM記載は不要

パターン2

✔ 直前期である22年3月期に一定規模要件を満たす

✔ 22年3月期はKAMの記載が必要

✔ 21年3月期もKAMの記載が必要

パターン3

✔ 直前期である22年3月期に一定規模要件を満たさない

✔ 22年3月期はKAMの記載が不要

✔ 21年3月期もKAMの記載が不要

直前期末に一定規模要件を満たすかどうかで直前々期及び直前期でKAMの記載が必要となるかどうかで判断すると考えれば分かりやすいかと思います。

上場直後の有価証券報告書でのKAMの取り扱い

IPO準備会社であっても上場すれば後は普通の上場会社となることから、上場した期の期末に提出する有価証券報告書については、一定規模要件等関係なくKAMの記載が必要となっています。

以上の情報は日本公認会計士協会のサイトからも確認できます。

監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の改正について

https://jicpa.or.jp/specialized_field/20200522cth.html

IPO準備会社の有価証券届出書でKAMを記載している事例

最後に2021年10月までに上場した会社で有価証券届出書にKAMを記載している事例を調べてみたところ、1社だけKAMを記載している会社がありました。2021年10月に上場したPHCホールディングス株式会社です。

同社は3月決算ですが、直前期末(21年3月期)の負債が461,458百万円、売上高306,071百万円となっており、上記の一定規模要件を満たしています。しかし、2020年3月期についてはKAMの記載はなしとなっていました。そのため上記パターン1に該当するものとなります。

なお、KAMの内容はのれんの減損でした。

金額規模要件が比較的多額のため(特に負債)、今後も有価証券届出書でKAMを記載するケースはあまり多くないのではないかと思いますが、年に数社は出てくるのではないでしょうか。今後も事例を追ってみたいと思います。

なお、1の部ではKAMは記載されません。これは1の部の監査報告書は金商法に準ずる監査となっており、純粋な金商法監査ではないためです。

以上「IPO準備会社の有価証券届出書におけるKAMの取り扱い」に関する記事でした。

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