ワイヤーカードの不正から学ぶ確認状の重要性

ドイツのフィンテック企業であるワイヤーカードの会計不正が表面化しました。記事を読む限りではかなり監査法人がお粗末であるように思いますが何があったのでしょうか。

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ワイヤーカードの不正

日経新聞の2020年6月27日付の記事に記載がありましたので引用します。

「独フィンテック企業ワイヤーカードの不正会計疑惑で、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は26日、会計監査を担当していたアーンスト・アンド・ヤング(EY)が預金残高の十分な確認を3年間怠っていたと報じた。監査法人による裏付け調査の不徹底が問題拡大につながった可能性がある。

FTによるとEYは2016~18年、ワイヤーカードがシンガポール大手のオーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)の口座に持つとされた最大10億ユーロ(約1200億円)について、銀行側に直接の確認を取っていなかった。資産の受託者や同社が提供した書類、画面コピーなどで手続きを済ませていたという。事情を直接知る関係者が証言した。」(2020年6月27日付 日本経済新聞朝刊)

簡単に記載すると以下の通りです。

ワイヤーカードの事例

✓ ワイヤーカード社の監査を担当している監査法人EYが2016年から2018年までの3年間の金融機関に対する確認状の送付を怠っていた

✓ 確認状を送付する代わりに会社が準備した書類や画面コピーを入手することにより監査手続を済ませていた

✓ 結果として、会計上は存在するとされていた1,200億円相当の預金が存在しないことが判明

これを見る限りEYの監査手続きはかなり杜撰に見えます。

今回省略された「確認」とはどんな内容なのか?

そもそも、今回ワイヤーカード社の監査で怠っていた確認という手続きは、財務諸表項目に関連する情報について、監査人が会社の取引先等の第三者に対して文書により問い合わせ、その回答を直接入手し、評価する監査手続をいいます

例えば、A社の〇〇銀行口座に1,000万円の普通預金があるのであれば、監査法人が〇〇銀行に対してA社の普通預金の残高を教えて下さいという確認状を送付します。

監査法人は〇〇銀行から回収した確認状の回答額と会社の残高の一致を確認して、残高に対する心証を得ます。そのため、〇〇銀行からの回答が1,000万円であればめでたしめでたしですし、回答が300万円しかないのであれば、会社残高1,000万円との差額700万円の差異理由を確認することとなります。

通常金融機関が嘘をつくとは考えにくいため、確認状の送付はかなり証拠力の強い監査手続となっています。そのため、この確認という手続を省略することは通常考えにくいです。

日本の監査で同様の事例は起こるか?

では、これと同様のこと、1,200億円の預金の確認状の送付を怠るということが日本の監査でも起きうるのでしょうか?私見ですが、これと同様の事例が日本で起きる可能性は限りなく低いと思います。

というのも、私が所属している監査法人では(おそらく日本中のほぼ全ての監査法人でも)金融機関の確認状の送付は原則必須となっているからです。上述しましたが金融機関に対して確認状を送付するという監査手続はかなり強力な証拠を入手できるため、これを省略する理由がないからです。

一部特殊なケース、例えば、会社が金融機関口座を多数保有しており、かつ特定の口座の残高が少ない場合には、金額的多寡を考慮して特定の金融機関に対してのみ確認状を送付するというケースもあります。

話を戻すと、ドイツの監査法人でも日本と同様のルールのはずですので、1,200億円もの残高のある金融機関に対する確認状の送付を省略したのは、何か特殊な理由があるのではないでしょうか。記事を調べる限りでは省略した理由までは分かりませんでした。

なお、EYは確認状の送付の代わりに会社側が準備した証憑で1,200億円の残高を検証しようとした様ですが、その証憑が改ざんされていたのでしょう。証憑の改ざん自体は日本でも結構ある話です。

経営者がワイヤーカード社の事例から学ぶべき内容

これは中小企業の経営者も学ぶべき事例ではあります。

中小企業では経理と財務関係の業務を同一担当者が長期にわたり担当するのはよくあることです。そういった場合に、長年務めている経理担当者が会社の預金を着服していた事例等、たまに新聞に載ったりしています。

そもそも、経理担当者を複数置いたり、上席者に承認させるようにしたりすれば、防ぐことも可能ですが、中小企業では経理を複数雇うことが難しいケースもあるでしょう。

この様な場合でも、経営者は月に1回、金融機関から届く「残高証明書」と会社の預金残高との一致を確認することにより、架空の預金などないか、不正があれば発見することもできるでしょう。

経営者こそ、確認手続を実施することが重要なのではないでしょうか。

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